ムーがゆく

わが身が、ゆるゆると世に漂うさまを書いていゆきます。

白球と私 ②

 聖地・甲子園の応援席で、いつまでも降りやまぬ雨に打たれ続ける黒ダルマの私。

雨天順延になってしまった場合、出直すのも馬鹿馬鹿しいのですが、お泊りするようなお金も持っていません。久しぶりに野宿をすることになりかねず、困惑する私。黒ビニールの次はダンボールに包まれる自分の未来を思うと、憂鬱になってきました。

 そんな私のせつない願いが通じたのか、少しづつ雨足が弱くなってきた気がします。これなら試合ができるかもしれません。ドキドキしながら空を見ていると、後ろの席に座っていた家族連れの黒ダルマのうち、小さな女の子が「てるてる坊主を逆さまに吊るすとね、雨が降るんやよ」と言って、かわいらしい声で『降れ降れ坊主』と題した悪魔のような唄を歌い、雨乞いの儀式を始めました。やめてください・・・。なんか妙に焦ってきます。情緒を乱した私が酒に逃げている間に、グラウンドに係員の方たちが出てきて整備を始めました。せっせと一輪車で土を運んできては水たまりを埋めていくその姿を応援しているうちに整備は完了。満場の拍手の中、2時間半遅れで試合が再開されました。

 だんだんと青空の輝きが戻ってきた甲子園。本命の第2試合が始まったのはお昼過ぎでした。あつい・・・。空いていた席で日陰になりそうな席を選んだつもりでしたが、目測が狂ったようで、ほんの2列違いでまぶしい真夏の太陽に晒される私。頭上で張りきっている太陽だけでなく、足元のコンクリートからの反射も半端ではありません。ダブルボイル製法により、ジリジリと炙られる私。グラウンドの選手たちより過酷な環境になっている気がします。丸めて座布団にしていた例の黒ビニールも色が色だけに輻射で熱を持ってしまい、熱くてなりません。まるで鉄板のようです。急いで尻の下からはずしましたが、あの切ない雨の時間をともに過ごしたこの袋、妙な愛着が湧いてしまい、捨てることはできませんでした。頭に乗せていたかちわり氷も儚く溶けてしまい、冗談抜きで熱中症でひっくり返りそうです。うつろな目で『降れ降れ坊主』の唄をつぶやく私。周りの観客からも、応援の声に混じって絶えることのないうめき声が聞こえてきます。みんなギリギリです。ひっきりなしに場外から救急車のサイレンが聞こえるのは幻聴でしょうか?

 肝心の試合の方も、劣勢ながらなんとか踏んばっていた岡山県代表校でしたが、試合中盤にポロっとエラーをしてしまい、そこから大量失点。もう勝つのは無理そうです。試合の大勢は決まってしまいましたが、それでも最後まで全力でプレーしているその姿が、ただただ爽やかでした。

 第4試合まで観戦してから、清々しい気分とビニール袋を胸にすっかり暗くなった球場を後にする私。お土産も買い漁ってから後ろ髪を引かれる思いで電車に乗りました。やっぱり来てよかったです。いろいろな意味で熱い思い出ができましたが、やはり夏の大会は横着せずに帽子を被っていこうと思いました。